近年、FIREムーブメントがますます加速しており、アメリカやヨーロッパ、日本などで注目を集めています。
FIRE(ファイア)とは、以下4つの英単語の頭文字をとった言葉です。
- F:Financial(ファイナンシャル)
- I:Independence(インデペンデンス)
- R:Retire(リタイア)
- E:Early(アーリー)
FIは「経済的自立」、REは「早期リタイア(引退)」を意味します。
家賃収入や配当金などの資産所得だけで暮らせる状態になり、定年より早く会社をやめて早期リタイアしようというムーブメントです。
非常に魅力的なFIREですが、決してラクな道のりではありません。
10年~15年の期間でFIREを達成するには、収入の半分以上を貯蓄や投資に回す必要が場合によってはあり得るのです。
それが何年も続くのはツラいよ!
「FIREなんて自分には無理!」と感じる人は、少なくないでしょう。
そして「お金は使うからこそ意味がある!貯めてFIREする人生に魅力を全く感じない。」という価値観を持っている人もいるはずです。
そこで今回は、FIREの正反対に位置する脱FIREプラン「ほとんど貯金せずに一生安心して暮らしていく方法」を紹介します。
なお、先に結論から伝えると、貯めない生き方を実践する脱FIREプランの超重要ポイントは公的年金です。
脱FIREプランの超重要ポイントである公的年金を増やす3つの戦略
- 現役時代の年収を上げる
- 長く働く
- 年金の繰り下げ受給をする
独身や共働きなど6つのケース別の年金受給額
紹介する脱FIREプランを最大限に活用できれば、現役で働いたお金をガマンして貯めなくても、お金の不安を抱えることなく老後生活を過ごせるでしょう。
人には遅かれ早かれ仕事を引退する日が訪れますが、最速で引退を狙うFIREと限界ギリギリまで現役を貫く脱FIRE、この2つは両極端の世界です。
ぜひ、今回の記事でFIREとは真逆の考え方に触れてみてください。
FIREと脱FIREの考え方を知ることで、2つの間に存在する第3のプラン「自分だけの生き方」を見据えて行動できるようになるはずです。
なお、今回紹介する脱FIREの正反対の考え方であるFIREについて知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。
今回の記事の内容は、田村正之氏の著書「人生100年時代の年金・イデコ・NISA戦略」を参考にしています。
公的年金の制度改正の知識や、人生100年時代を生きる上での活用方法など数多くのコツが分かる一冊なので、興味を持った人はぜひ読んでみてください。
以下の図解を見てから記事を読み進めると理解しやすくなるので、参考にしてください。
▼図解:貯金しないで一生安心して暮らす方法
目次
解説動画:ほとんど貯金せずに「一生安心して暮らしていく方法」
このブログの内容は下記の動画でも解説しています!
公的年金制度のよくある誤解への回答
先述した通り、貯めない生き方の超重要ポイントは公的年金です。
公的年金の制度は、皆さんの想像以上に良くできています。
しかし「日本の公的年金制度は破綻している。年金を頼りに生きるのは無謀なのでは?」と考える人もいるのではないでしょうか。
年金制度は複雑なため、誤解が生じやすく様々な意見が飛び交うのは仕方ありません。
そこで、まずは公的年金制度への誤解を解いておきましょう。
公的年金制度のよくある3つの誤解と、誤解に対する回答は以下になります。
- 年金は将来もらえないだろう
- 年金の財源である積立金は近いうちに枯渇する
- インフレを考えると、お金の価値が落ちるので満足な金額にならない
受給額が少なくなったとしても、年金を将来1円も受け取れないことはありません。
厳しめに想定した場合でも、受給総額は2022年時点よりマイナス10%程度の水準です。
ちなみに、厚生労働省が公表している令和4年度モデル年金の受給額は、平均的な年収水準の会社に40年間勤めた片働き世帯の場合、夫婦2人で月額およそ22万円です。
(参考:厚生労働省「令和4年度の年金額改定について」、日本経済新聞出版「人生100年時代の年金・イデコ・NISA戦略」 より)
年金積立金の運用は好調で、運用資産額は約200兆円近くまで増えています。
さらに、年金積立金管理運用独立行政法人の「2021年度の運用状況」によると、2021年度第3四半期の時点で累積収益額は約107兆円です。
公的年金は、インフレに合わせて支給額がある程度増える仕組みになっています。
「唯一のインフレ対応型終身年金」が公的年金であり、民間企業では決して作れないレベルの保険です。
なお、物やサービスの価値が上昇し、お金の価値が相対的に下がるインフレについては以下の図解で分かりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
▼図解:インフレとデフレ
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また「年金制度は少子高齢化で破綻する!」という意見も、よく耳にします。
ここで、田村正之氏の著書「人生100年時代の年金・イデコ・NISA戦略」に掲載されている以下の図を見てみましょう。
上記の図によると、1980年ごろは1人の高齢者を6.6人で支え、2040年になると1人の高齢者を1.4人で支えるようになることが分かります。
そのため、高齢者と現役世代の比率データを見て、「年金制度が破綻するのでは?」と考えるのもムリはありません。
しかし、年金制度で重要なのは高齢者と現役世代の比率ではなく、図の下欄に掲載されている非就業者と就業者の比率なのです。
最近では女性や高齢者も労働に参加するようになり、就業者は増えています。
実は、1980年と2040年のデータを見ても「1人の非就業者を0.9人の就業者で支える」という比率は変わっていません。
もちろん、高齢者や女性の年収は一般的な男性の年収と差異はありますが、皆さんが考えるほど悪化していないのです。
さらに、少子高齢化や人口減少で永遠に悪くなり続ける印象を受ける年金制度ですが、2040年以降は年金受給者と現役世代のバランスが同じくらいになると見込まれています。
(参考:厚生労働省「2019(令和元)年財政検証結果レポート」より)
ここまでの話を踏まえ、以下2つの前提で次の章より解説していきます。
- 公的年金を最大限活用することで脱FIREが狙える
- 日本の公的年金制度は多少悪化しても破綻はしない
なお、国民年金と厚生年金の制度概要や、年金制度が破綻する可能性は低いと考えている理由については以下の記事でも詳しく解説しています。
公的年金を増やす3つの方法
公的年金の受給額は人によって異なります。
将来の受給額がいくらになるかは自分次第で、公的年金を増やす方法は基本的に以下の3つが挙げられます。
- ①現役時代の年収を上げる
- ②長く働く
- ③年金の繰り下げ受給をする
年金を増やす方法①:現役時代の年収を上げる
年金を増やす方法1つ目は、現役時代の年収を上げることです。
以下の図を参考に、公的年金制度について見ていきましょう。
1階部分:国民年金 → 基礎年金とも呼ばれ、20歳以上60歳未満の人が対象。会社員や自営業者、フリーランスなど働き方に関係なく加入する。
2階部分:厚生年金 → 会社員と公務員が対象で、勤めていれば20歳前でも加入する。
公的年金は国民年金と厚生年金の2階建ての制度となっています。
上記の表の1階部分である国民年金は、皆さんの年収が300万円でも1,000万円でも受給額は変わりません。
なお、令和4年度の国民年金の受給額は、満額で月額約6.5万円です。
一方で、厚生年金は収入が高いほど年金受給額は増えます。
ここで、厚生労働省が公表しているモデルケースを例に、年金受給額がどのくらいになるのか見ていきましょう。
前提条件
- 平均的な年収水準の会社に40年間勤める
- 年収は約490万円
年金受給額の内訳
- 国民年金:約6.5万円
- 厚生年金:約9万円
→ 年金受給額の合計:月額で約15.5万円(年額で約186万円)
(参考:厚生労働省「令和4年度の年金額改定について」より)
もし、皆さんが平均より3割高い年収水準の会社で働いた場合、厚生年金の受給額も約9万円から約11.7万円に3割増加します。
月額で約2.7万円のアップとなり、仮に65歳~94歳までの30年間を生活すると、総額で約970万円も受給額が増えるのです。
このため、年金の総受給額を考慮した場合、年収と貯蓄額が異なる以下の2人の家計実態は、ほぼ同じとなる計算になります。
公的年金の総受給額を考慮すると家計実態はほぼ同じになる
- 平均年収のAさん:65歳時点で1,000万円を貯蓄済み(年収は平均水準の約490万円)
- 高年収のBさん:65歳時点で貯蓄ゼロ(年収は平均より3割高い水準の約630万円)
※65歳~94歳までの30年間を生活した場合
収入を上げ、厚生年金分の受給額を増やせれば、貯金が少なくても老後資金を確保できる可能性が高まります。
したがって「自分で稼いだお金は貯めずに使いたい!」という価値観の人は、高所得のサラリーマンとして働き続ける選択肢を視野に入れてみましょう。
出世や転職など様々ある年収アップ方法の中で、最速の選択肢について以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
なお、一つ注意点として、厚生年金の受給額には上限があります。
月給を約65万円以上、賞与を約150万円以上に上げても、厚生年金の受給額は増えないので注意しましょう。
年金を増やす方法②:長く働く
年金を増やす方法2つ目は、長く働くことです。
国民年金の加入期間は20歳~60歳ですが、厚生年金は70歳まで加入できます。
そのため、60歳から70歳まで働き続け、厚生年金保険料を納め続けることにより、年金受給額を大きく増やすことが可能です。
例えば、年収360万円で60歳から10年間働くと、年金受給額の増加分は年額で約20万円、月額で約1.7万円増えます。
70歳になるまで働き、90歳まで年金を受け取ると仮定した場合、長く働くことで確保できる金額は以下の通りです。
前提条件
- 年収360万円で60歳から70歳まで働く。
- 厚生年金保険料をプラス10年間納め続ける。
- 90歳まで長生きして年金を受け取る。
60歳以降に確保できる金額
- 60歳~69歳:自分で働いて稼ぐお金 → 3,600万円(年収360万円 × 10年間)
- 70歳~90歳:年金受給額の増加分 → 約420万円(約20万円 × 21年間)
→ 60歳まで加入した分の年金に加え、合計で約4,000万円のお金を確保できる。
「自分で稼いだお金は、貯金せずに使って楽しみたい!」と考える人にとって、長く働くというのは最強の選択肢になり得るでしょう。
年金を増やす方法③:年金の繰り下げ受給をする
年金を増やす方法3つ目は、繰り下げ受給をすることです。
公的年金は、原則として65歳になると受給できるようになります。
しかし、あえて年金を70歳になるまで受け取らない選択もでき、これを「繰り下げ受給」と言います。
公的年金は、受け取りを遅らせるほど受給額が増える仕組みになっています。
図で見ると、以下のようなイメージです。
65歳時点の受給額を100%とすると、受給開始を1カ月遅らせるごとに、受給額は0.7%増えます。
つまり、70歳まで繰り下げると「0.7% × 60カ月 = 42%」も受給額が増えるのです。
もともとの受給額が月10万円なら、月14.2万円に増えるイメージです。
先述した通り、公的年金は終身年金のため、受給額アップの効果は一生涯続きます。
「稼いだ分は貯金せずに使いたいし、老後も不安なく生活したい。」という人にとって、終身年金は非常に心強いでしょう。
長寿化に伴い平均寿命は年々伸び続けており、厚生労働省「令和2年簡易生命表の概況」によると平均寿命は男性で81.64歳、女性で87.74歳です。
上記のデータを踏まえ、自分が82歳以上まで生きると想定し、繰り下げ受給を行う選択肢もあるというワケです。
また、年金法の改正により2022年4月から繰り下げ受給の年齢上限が75歳に延長され、繰り下げ増額率が最大42%から最大84%になります。
- 年金の受給開始を1年遅らせる(66歳):年金が8.4%増える
- 年金の受給開始を5年遅らせる(70歳):年金が42%増える
- 年金の受給開始を10年遅らせる(75歳):年金が84%増える(※2022年4月より)
なお、繰り下げ受給や2022年4月からの年金法の改正ポイントについて、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
さて、公的年金を増やす3つの方法の情報をまとめると以下になります。
現役時代の年収を上げる
- 年収を上げるほど年金受給額は増える
- ただし厚生年金の受給額には上限がある(※月給を約65万円以上・賞与を約150万円以上に収入を上げても受給額は増えない)
長く働く
- 例:年収360万円で60歳から70歳まで働いた場合 → 年金受給額は年額で約20万円増える
年金の繰り下げ受給をする
- 例:受給を70歳まで遅らせた場合 → 年金受給額が42%アップする
- 2022年4月から繰り下げ受給の年齢上限が75歳に延長される(※年金受給額の増額割合が最大84%になる)
繰り返しになりますが、公的年金は増えた受給額の効果が一生涯続く終身年金です。
そのため、公的年金を増やす3つの方法をフル活用することは、脱FIRE、つまり貯めない生き方を実現できる可能性を秘めています。
そこで続いては、公的年金を増やす3つの方法を活用したパターンを含め「年金受給額はどのくらいになるのか?」をケース別に見ていきましょう。
独身や共働きなど6つのケース別の年金受給額
独身や夫婦といった6つのケース別に、年金受給額の目安をそれぞれ解説していきます。