社長といっても、上場企業や大企業などの社長向けの話ではなく、中小企業のオーナー社長やマイクロ法人のひとり社長に向けた内容です。
日本には、「おいおい、そんなのアリ!?」というズルい賞与(ボーナス)のもらい方があります。
そこで今回の記事では、以下の3点について解説します。
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与のメリット
事前確定届出給与のデメリット
社長向けの話と聞いて、「自分はただのサラリーマンだから関係ない」と思った人も、分かりやすさ重視で楽しく解説するので、ぜひ最後まで読んでみてください。
今回紹介する「知って得する、ズルい賞与のもらい方」は上級者向けの内容になっていますが、最後まで読んでもらうと以下のような社会のリアルが分かるはずです。
- 法律は人間が作るものなので、どこかに必ず「穴」が生まれる
- 合法的に「穴」を突くことで、経済的なメリットが得られる
このような穴は、今回の内容に限らず社会のそこら中にあるものです。
「リアル」を知っておくだけでも、生き方が変わってくるはずです。
最後には、今回紹介するような穴を発見するためのヒントも紹介します。
以下の図解を見てから記事を読み進めると理解しやすくなるので、参考にしてください。
▼図解:制度の抜け穴? ズルいボーナス
目次
解説動画:【知って得する】ズルい賞与のもらい方!「事前確定届出給与」のメリット&デメリット
このブログの内容は、以下の動画でも解説しています!
事前確定届出給与とは
事前確定届出給与という言葉を聞いただけで、「難しい言葉!つまらなそう!」と感じる人も多いでしょう。
事前確定届出給与というのは、法人税法で決められた役員報酬のもらい方の1つです。
名前にこそ「給与」と付いていますが、その実態は「賞与」です。
1月は25万円、2月は30万円、3月は27万円のように異なる金額を支払えない
基本的に、毎月まったく同じ給与を支払い続ける必要がある
つまり、1月・2月・3月ともに、50万円と決めたら50万円を支払い続ける必要があります。
仮に、皆さんが会社の社長だとしましょう。
1月1日に仕事を始めて、決算を締める12月31日時点で1,000万円の利益が残ったとします。
この場合、1,000万円をそのままにしておくと、約35%の税金がかかります。
しかしこの1,000万円を自分に「賞与」として支払ってしまえば、会社の利益は0円になり税金もかからないワケです。
先ほどの例で考えると、会社に利益を残すと350万円(法人税率35%)の税金が取られる一方で、社長個人に支払うことで200万円(個人税率20%)の税金で済む計算になります。
社長(役員)は、「法人で法人税を納める方が得か?個人で所得税を納める方が得か?」ということを考えた上で、決算期ギリギリに税金を自由自在に操作できる立場にいるワケです。
国としては、このような利益操作による「税金逃れ」は何としても防ぎたいと考えます。
そこで国は役員の報酬に関して、「基本的に、毎月まったく同じ給与を支払い続けてください」というルールを決めました。
ちなみに毎月同額を支払う方法を、専門用語で「定期同額給与」と言います。
一方で役員としては、「賞与」も欲しいと考えます。
毎月完全に固定された給料だけでは、やる気が出ないという人もいるでしょう。
というワケで、法人税法では他に2つの支払い方を認めており、そのうちの1つが「事前確定届出給与」になります。
ちなみに、リベ大両学長も事前確定届出給与をもらったことがあるそうです。
事前確定届出給与はその名の通り、「支払う金額を事前に届け出ておく」方法です。
決算締め前のタイミングで賞与額を決めることができると、先ほどお伝えしたような「税金逃れ」が可能になります。
そこで、「あらかじめ金額を決めて、教えておいてね」という制度になっているワケです。
- 誰に支払う?
→ 例:役員の〇〇さんに - いつ支払う?
→ 例:2023年6月30日に - いくら支払う?
→ 100万円を
「上記の内容で、役員報酬を支払います」というように、届け出を出します。
これを事前に届け出ることで決算ギリギリでの利益操作が不可能になるため、税務署も問題なく許してくれるワケです。
800万円 ÷ 12カ月 = 毎月約66万円の給与をもらう方法です。
この場合、社会保険料の総額は約120万円になります。
毎月5万円の給与 + 740万円の事前確定届出給与(賞与)をもらう方法です。
この場合、社会保険料の総額は約60万円になります。
役員報酬の大半を、「毎月の給与」ではなく「年イチの賞与」としてもらうだけで手取りが増えるトリックは、一体どこにあるのでしょうか?
というワケで、事前確定届出給与のメリットについて解説していきます。
事前確定届出給与のメリット
事前確定届出給与のメリットは、次の2つです。
- 社会保険料の節約になる
- 高額療養費が有利になる
メリット①:社会保険料の節約になる
社会保険料というのは、以下のようなものを指します。(※会社員の場合)
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険
- 労災保険
上記1つ目~3つ目の保険料は、「標準報酬月額」を基に決まります。
以下の表をご覧ください。
小学生にとっての足し算・引き算くらい重要なので、ぜひここで読み方を覚えておきましょう。
例えば給料が月225,000円の人であれば、報酬月額は210,000円~230,000円の枠に収まります。
すると、この人の標準報酬月額は「220,000円」になります。(下図参照)
Bさん:月給223,000円 → 標準報酬月額220,000円
Cさん:月給224,000円 → 標準報酬月額220,000円
つまり一定のレンジに収まっている人は、皆同じ給料だと仮定するワケです。
そして標準報酬月額の右の方を見ると、「保険料」が分かります。
上図のように標準報酬月額が220,000円の人は、「健康保険料:13,002円(介護保険料込)」「厚生年金保険料:20,130円」となっています。
健康保険料の13,002円という金額は、次のように計算されています。
標準報酬月額220,000円 × 保険料率11.82% = 26,004円
上記の26,004円を、企業と従業員で折半(半分ずつ)して負担する。
つまり、26,004円 ÷ 2 = 13,002円 となる。
計算方法については、ざっくりした雰囲気をつかんでもらえたらOKです。
ここまでが、社会保険料の決まり方の基本です。
さて、初心者向けの話であればココで終わりですが、この話にはまだ続きがあります。
標準報酬月額表の全体図をご覧ください。
表の下の方を拡大してみましょう。
この「賞与にかかる保険料額」の部分に、ズルい賞与のヒントがあります。
皆さんは、基本的には「月給」「賞与」という2種類の報酬をもらっているはずです。
月給に対してかかる社会保険料は、先ほど説明したように標準報酬月額がキーになります。
一方、賞与に対してはどのように社会保険料がかかるのでしょうか?
- 賞与の金額 × 社会保険料率で決まる
- 健康保険に関しては、賞与が573万円を超えると保険料はかからない
- 厚生年金に関しては、賞与が150万円を超えると保険料がかからない
ココが、「ズルい賞与」の生まれ故郷というワケです。
例えば社長の年収が800万円の場合、報酬のもらい方を次の2つに分割します。
- 月給5万円 × 12カ月 = 60万円
- 賞与740万円
上記のようにすると、社会保険料がかからない部分が生み出されます。
具体的には、賞与のうち以下の部分に対しては社会保険料がかかりません。
- 健康保険:740万円 - 573万円 = 167万円
- 厚生年金:740万円 - 150万円 = 590万円
- 健康保険:167万円 × 11.82% = 約20万円
- 厚生年金:590万円 × 18.30% = 約110万円
「社会保険料がかからない部分」のおかげで、急にキャッシュが発生しました。
数字がゴチャゴチャしてどうしても頭に入らない人は、結論だけ押さえてください。
月給・賞与は、ある程度の金額を超えると社会保険料がかからなくなる
月給・賞与のバランスを変えるだけで、社会保険料を節約できる可能性がある
同じ年収にもかかわらず、もらい方を変えるだけで手取りが増えるという不思議な状況が生まれるワケです。
両学長の知人には、「月給:5万円」「賞与:2,000万円(年1回)」という人がいます。
税金・社会保険料に詳しい経営者たちは、このように合法的に節税しているワケです。
仮に年間100万円の差が出た場合、同じことを30年続ければ3,000万円の差がつきます。
さらに浮いた100万円を資産運用に回すと、その差はもっと広がるでしょう。
まさに、「知っている」のと「知らない」のとでは、天と地の差が生まれます。
ちなみに両学長の役員報酬は、月8万円だそうです。
今回の話から、「学長もボーナスをいっぱいもらってるの?」と思った人もいるでしょうが、両学長はボーナスをまったくもらっていません。
メリット②:高額療養費が有利になる
社会保険料の節約になるだけであれば、「制度の穴」とまでは言えないかもしれません。
なぜなら保険料が減る分保障も減るため、「まぁそれなら良いか」となるからです。
具体的には、保険料は減っているにもかかわらず、保障が増える仕組みになっていれば、「なんじゃそりゃ!」となる人もいるでしょう。
実は、このようにおかしなことが起きているのが「高額療養費制度」というワケです。
高額療養費制度は、「医療費がめちゃくちゃかかった時のために、“自己負担額の天井”を作る」という大変ありがたい制度です。
一般的な年収の場合、高額療養費の自己負担額の上限は月8万円~10万円程度です。
つまり、月100万円の医療費が3カ月かかったとしても、自己負担額の総額は8万円 × 3カ月 = 約24万円で済むようなイメージです。
なお自己負担割合は原則3割なので、高額療養費制度がなければ毎月30万円のお金がかかります。
ちなみに両学長のお父さんも肺がんの手術で1カ月程度入院していましたが、高額療養費制度のおかげで治療費の自己負担額は総額5万円〜6万円程度で済んだそうです。
自己負担額の上限がいくらになるかは、所得の大小で決まります。(下図参照)
- 標準報酬月額83万円以上の場合
→ 自己負担限度額:月約25万円~ - 標準報酬月額28万円未満の場合
→ 自己負担限度額:月57,600円 - 住民税非課税者の場合
→ 自己負担限度額:月35,400円
ここでポイントになるのは、自己負担限度額が「標準報酬月額を基に決められている」ことです。(※会社員や公務員など、健康保険加入者の場合)
つまり同じ年収800万円の人でも、以下のような違いが出てくるワケです。
→ 自己負担額が増える 月給(標準報酬)が低い人
→ 自己負担額が減る
シンプルに言うと、賞与は無視して月給だけで判定されるということです。
そのため、先ほど紹介したように年収800万円の内訳が月給5万円・賞与740万円になるような人は、高額療養費の制度上は「低所得者」になるワケです。
後ほど解説しますが、社会保険料の節約にはデメリットもあります。
将来受け取れる年金が減るというのも、デメリットの1つです。
多くの人は、保険料納付額の少ない人が受け取れる年金額が減っても文句を言わないでしょう。
しかし高額療養費制度の場合は状況が異なります。
納める保険料が少ない人の給付が増えているワケです。
保険は相互扶助(=助け合い)の優しい仕組みなので、「年収の高い人が年収の低い人の分まで保険料を負担する」ことには合理性があります。
事前確定届出給与のメリットをまとめると、以下のようになります。
社会保険料の節約になる
高額療養費制度のおかげで、医療費がものすごくかかった時の自己負担額が減る
まったく同じ年収にもかかわらず、事前確定届出給与によって「月給・ボーナス」のバランスを変えるだけで、このような状況が発生します。
この点が現状問題になっていないのは、このやり方をしている人や、このやり方をして高額療養費制度のお世話になっている人が少ないからなのかもしれません。
理屈で考えると、本当に不思議な制度の穴と言えるでしょう。
事前確定届出給与のデメリット
物事は、メリット・デメリットの両面を見て判断する必要があります。
結論からお伝えすると、決して小さいデメリットではありません。
具体的なデメリットは、以下の5つです。
- 手続きが面倒くさい(しかもミスると大ダメージ)
- 法人が赤字になることがある
- 最低でも生活費1年分を確保しておく必要がある
- 「年金」や「損害補償額」が減る
- 役員退職金が減る
デメリット①:手続きが面倒くさい(しかもミスると大ダメージ)
事前確定届出給与を使うには、期限までに税務署に以下のような「届出書」を提出する必要があります。
- 「株主総会議事録」を作る
- 「付表」を添付する
- 年金事務所に「賞与支払届」を提出する
いずれも、それほど難しくはないものの面倒くさい作業です。
さらに超重要なのが、届け出た通りの日に、届け出た通りの金額で役員報酬を振り込む必要があるということです。
仮に1日でも、1円でもズレると、非常に厄介なことになります。