
年金の話題に関して、たびたびネット上で炎上騒ぎが起きています。
- ニュース①:2022年10月15日 産経新聞「納付期間45年へ延長検討 政府、国民年金保険料」
- ニュース②:2022年9月28日 日本経済新聞「国民年金「5万円台」維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め」
1つ目のニュースは、政府が国民年金の保険料納付期間を、40年から45年に延長することを検討しているという内容です。
現状の国民年金保険料は、20歳~60歳までの40年間払えば良いところ、将来的には20歳~65歳までの45年間払う必要が出てくるかもしれません。
これに対し、ネット上では以下のような大ブーイングの声が溢れました。
「そのうち、75歳とかまで保険料を払う必要がありそうですね。」
「年金をもらう前に死んでしまう!」
2つ目のニュースは、政府が国民年金を維持するために、厚生年金での穴埋めを考えているという内容です。
つまり、会社員の負担を増やそうとしているワケなので、当然こちらも大ブーイングです。
岸田政権は、2025年夏まで大型選挙がない「黄金の3年間」を手にしているので、国民の反対が強そうな法改正も割と強気で進められる状況にあります。
そこで今回の記事では、以下の2点について解説します。
「年金納付期間が45年に延長検討」について
「厚生年金による国民年金の穴埋め検討」について
それぞれのパートの最後では、具体的な対策についても解説します。
最後まで読んでもらうことで、以下のような内容についてのヒントが掴めるはずです。
- 日本の年金はオワコンになるのか?
- 自分の老後は一体どうなるのか?
- 対策できることはないのか?
以下の図解を見てから記事を読み進めると理解しやすくなるので、参考にしてください。
▼図解:国民年金しわ寄せ 会社員・公務員に?
目次
解説動画:【またしてもネット炎上】年金の「納付期間45年に延長」と「厚生年金で穴埋め」について解説
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
「年金納付期間が45年に延長検討」について

まずは、年金納付期間が45年に延長検討されているニュースについて解説します。
このパートでは、以下の順番で解説していきます。
- 国民年金の基礎知識
- ニュースの解説
- 対策
「何歳まで生きればモトがとれるの?」「一体、年金はいくらもらえるの?」という基本は知っているという人は、2つ目のニュース解説から読み進めてください。
国民年金の基礎知識

日本の年金制度は3階建てになっていますが、国民年金はその1階部分にあたります。
国民年金の加入者は以下の通りです。

(出典:政府広報オンライン「会社員などの配偶者に扶養されている方、扶養されていた方(主婦・主夫)へ知っておきたい「年金」の手続」)
- 第1号被保険者(約1,453万人)
→ 自営業者、学生など。
- 第2号被保険者(約4,485万人)
→ 会社員や公務員など。
- 第3号被保険者(約820万人)
→ 第2号被保険者に扶養されている配偶者。
フリーランスや専業主婦・主夫が加入しているのは国民年金だけなので、老後生活のイメージは1階建ての平屋です。
一方会社員や公務員は、1階部分の国民年金だけではなく、2階部分の厚生年金にも加入しているので、2階建ての戸建てになります。
大企業に勤めている人や、iDeCoなどをやっている人は、3階部分にあたる企業年金・私的年金があるので、3階建ての豪邸です。
1階部分にあたる国民年金について、「自分が納付する保険料」と「自分がもらえる年金額」の関係がどうなるのか確認していきましょう。
保険料は、2022年度現在で月額16,590円です。
国民年金の加入期間は、20歳以上60歳未満の40年間となっています。
よって保険料総額は、以下の計算式となります。
新車のベンツやBMW1台分といった金額です。
一方、65歳から受け取れる年金額は、2022年度では年間約78万円です。
総額800万円納めて毎年78万円もらえるので、単純計算で800 ÷ 78 = 約10.3年でモトがとれる計算になります。
2021年時点の、日本人の平均寿命をご覧ください。
- 男性:81.5歳
- 女性:87.6歳
- 男性:約1,280万円
→ 納付した保険料の約1.6倍
- 女性:約1,760万円
→ 納付した保険料の約2.2倍
このように、統計的には国民年金は分の悪い賭けではありません。
国民年金は終身年金なので、長く生きれば生きるほどトクをします。
要するに、国民年金は以下のような特徴がある良い年金というワケです。
- 平均寿命を考えると、損する確率の方が低い。
- 終身年金なので、人生100年時代の長生きリスクにも対応できる。
- ケガや病気で働けなくなった時には障害年金がもらえる。
- 自分に万が一のことがあった場合、家族は遺族年金がもらえる。
ちまたに溢れている年金制度に関する悪い話は、ここまで紹介した客観的な数字をもとに考えなくてはいけません。
「年金未納問題は、先ほどの数字にどう影響する?」「支給開始年齢が70歳などにズレると、先ほどの数字にどう影響する?」というように、とにかく数字で考えるのがコツです。
数字で考えることは、枝葉だけではなく木全体を見ることに繋がります。
枝葉の一部が傷ついているのか、木全体が腐ってしまったのかは、まったく違う話です。
まだ寄りかかれる木なのに、そこから離れてしまっては、かえって自分の生活が苦しくなる可能性があります。
今回話題になっているのは、国民年金の保険料納付期間が、これまでの60歳から65歳までに伸びるかもしれないという話です。
以上の基礎知識を前提に、ニュースの解説に移ります。
国民年金のニュース解説

冒頭でも紹介した産経新聞の記事を一部引用します。
政府は国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から延長し、65歳までの45年間とする検討に入った。
自営業者や、60歳以降は働かない元会社員らは負担が増す。
企業の雇用延長などで65歳まで働く人は現在も保険料を払っており負担は変わらない。
関係者への取材で15日、分かった。
①いつから?
60歳から65歳への延長は、まだ決定事項ではありません。
政府は、再来年である2024年(令和6年)に結論を出し、2025年(令和7年)国会での改正法案の提出を目指しているとのことです。
国民の反発が強ければ、見直しもありえるでしょう。
②誰の負担がどのくらい増えるのか?
負担が増えるのは、60歳~65歳までの自営業者や働かない人(元会社員など)です。
最近では、60歳で定年退職した後、65歳まで再雇用で働く人が増えました。
以下のグラフからも分かるように、今や60歳~64歳のうち71.5%の人が働いています。

(出典:内閣府「高齢期の暮らしの動向」)
国家公務員などについても、定年が2023年(令和5年)以降段階的に延長され、最終的には65歳になることが決まっています。
会社員として再雇用で65歳まで働く人や、定年延長で65歳まで働く公務員のような人は、65歳まで年金保険料を払うことになっているワケです。
つまり、期間が延長されても負担が増えるということにはなりません。
先ほど確認した通り、2022年(令和4年)時点での年金保険料は月額16,590円(年間約20万円)です。
延長期間は5年なので、総額では20万円 × 5年 = 100万円の負担増となります。
③受給額は増えるのか?
シンプルに「100万円負担が増える」と言われたら、怒りを抑えられない人も多いでしょう。
しかし、保険料の納付期間が延長して保険料の納付額が増えるからには、受け取れる年金も増えるはずです。
記事には書かれていませんでしたが、厚生労働省の試算によると、保険料の納付期間が40年から45年に延長されることで、年金受給額も45/40倍になるとのことです。
(参考:厚生労働省「2019(令和元)年財政検証結果レポート」)
「政府の言うことは信用できない!」という人も少なくないと思いますが、試算上はそうなっています。
このように見てみると、年金納付が65歳まで延長される検討に至った背景が分かるでしょう。
- 日本人の平均寿命がどんどん延びている。
- 会社員や公務員の定年が60歳から65歳に延長されている。
→ 自営業者なども、65歳まで保険料を負担してもらおう。
国民年金の対策

国民年金保険料の納付が始まったのは、今から約60年前の1961年です。
当時の平均寿命は、以下のような状況でした。
- 男性:約66歳
- 女性:約70.8歳
(参考:内閣府「平均寿命の推移」)
現在の平均寿命(男性:約81.5歳、女性:約87.6歳)と比べると、寿命はひたすらに延び続けていることが分かります。
そうである以上、保険料の納付期間の延長や受給開始年齢の繰り下げという話題は、今後も出続けるでしょう。
では、この現実に対してどう対策していけば良いのでしょうか?
結論は、以下の3つです。
- 働き続ける
- 資金繰りしておく
- 保険料免除制度を活用する
対策①:働き続ける
最もシンプルな対策は、働き続けることです。
老後問題は、老後があるからこそ生まれる問題です。
逆に言うと、生涯現役を貫くつもりなら、老後問題はなくなります。
生涯現役を貫く人にとって、国民年金というのは「病気・ケガ、加齢などで働けなくなった時の保険」でしかないというワケです。
寿命が延び続ける世界は、好き・得意な仕事をやり続けられる人にとっては何でもありませんが、そうではない人にとっては残酷です。
好き・得意な仕事の価値は、これからも高まり続けるでしょう。
対策②:資金繰りしておく
60歳~65歳の間に100万円負担が増えるものの、その後の10年ちょっとで取り返せるという前提で考えてみましょう。
この100万円は、要は資金繰りの問題と置き換えることができます。
つまり、先に100万円用意しておくことができれば、保険料の納付は資産運用を行うようなものです。
60歳で引退したいのであれば、それまでにしっかりお金を貯めておけば良いだけの話です。
対策③:保険料免除制度を活用する
もし、60歳~65歳の間に納付すべき100万円を用意できなかったら?と心配する人もいるはずです。
用意できなかったけれど仕事を辞めたいという人は、国民年金の「保険料免除制度」を使いましょう。
保険料免除制度とは、所得の少ない人が所得水準にしたがって保険料が免除される制度です。

(出典:日本年金機構「保険料免除制度とは」)
② 4分の3
③ 半額
④ 4分の1
保険料の納付を全額免除された場合でも、保険料を全額納付した場合の2分の1の年金受給額が増えます。
つまり、1円も納付してないにも関わらず、本来の50%分年金がもらえる非常に助かる制度というワケです。
国民年金というのは、日本の年金制度の根幹です。
1階部分が崩れたら、2階も3階もあったものではありません。
国としては、国民年金の信頼性を確保するのは最優先事項と考えており、誰がどう計算しても損をするような制度にはしないでしょう。
そういう意味で、国民年金はこれからも比較的「良い制度」であり続けるはずです。
1階部分である国民年金を「損な制度」にできないのならば、そのツケはどこにいくのでしょうか?
結果として、2階部分の厚生年金にいくしかないというワケです。
以前からお伝えしている通り、国民年金は割に合う保険ですが、厚生年金は割に合いません。
それでは、次の厚生年金の話題に移りましょう。
「厚生年金による国民年金の穴埋め検討」について

このパートでも、以下の順番で解説していきます。
- 厚生年金の基礎知識
- ニュースの解説
- 対策
国民年金のパートと同じく、「何歳まで生きればモトがとれるの?」「一体、年金はいくらもらえるの?」という基本を知っている人は、2つ目のニュース解説から読み進めてください。
厚生年金の基礎知識

厚生年金に加入しているのは、会社員・公務員です。
保険料は、国民年金のように「月額いくら」と固定で決まっておらず、標準報酬月額というものをベースに決まります。
標準報酬月額については、以下の表をご覧ください。

(出典:全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から) 東京都」)
例えば上図赤枠で囲った部分、月給が195,000円~210,000円の人は、厚生年金保険料は36,600円になります。
厚生年金保険料は労使折半なので、36,600円を全額自分で負担するワケではありません。
自己負担分は半分の18,300円になり、残りの18,300円は会社負担です。

(出典:全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から) 東京都」)
また上図赤枠で囲った部分、月給が310,000円~330,000円の人は、厚生年金保険料は58,560円になります。
同様に全体の半分である29,280円が自己負担となり、残りの半分は会社負担です。
このように厚生年金保険料は、自分が払っている分と同じ金額を、会社も払っていることになります。
そして厚生年金の保険料には、実質的に国民年金分も含まれているのです。
つまり、厚生年金に加入している人は、1階部分と2階部分をまとめて払っているワケです。
そのため、受給額は次の2つの合計になります。
→ 満額で年額約78万円。
② 厚生年金の報酬比例部分
上記の例の場合、国民年金と厚生年金を合わせると、年額約190万円になります。
ざっくり、月15万円ちょっとの受給額です。
国民年金は65歳で受給開始してから、約10年生きるとモトがとれる計算でした。
では、厚生年金はどうなるでしょう?
それは、会社負担分の保険料をどう考えるかという問題です。
実はこの考え方について、世の中には以下の2つの勢力があります。
- 勢力①: 「厚生年金保険料のうち半分は、会社が払ってくれてありがたい!」と考える人たち。
- 勢力②: 「厚生年金保険料のうち半分は、本来自分が給与としてもらうもの。会社が納めているといっても、実質的に自分が納めているのと変わらない!」と考える人たち。
仮に①を「会社ありがとう派」、②を「それ俺のお金派」と呼びましょう。
「会社ありがとう派」の場合
会社ありがとう派の場合、損得の計算は以下のようになります。
勤続年数40年、平均年収500万円と仮定
- 保険料の総額:約1,800万円(国民年金部分も含む)
- 受給額の合計:約3,000万円(男性が平均寿命81歳まで生きた場合)
ざっくり支払った保険料に対して、約1.7倍の見返りがあります。
女性が平均寿命まで生きた場合は、寿命がさらに長くなるので約2.2倍の見返りです。
どちらも、受給開始から約10年でモトがとれる計算になります。
しかも、厚生年金の加入者に所得の少ない配偶者がいる場合、その人は第3号被保険者になることができます。
つまり会社員や公務員の人で、配偶者の収入が低い場合、その配偶者は保険料を一切払わずして、国民年金をしっかり受給できるようになるワケです。
- 自己負担分で見ると、十分な給付がもらえる。
- 配偶者が第3号被保険者になれる。
- そもそも、会社員として長期にわたり安定した雇用がある。
「それ俺のお金派」の場合
一方で、それ俺のお金派の場合はどうなるでしょうか?
納付する保険料の総額は、1,800万円の2倍という考え方になります。
労使折半で会社が負担している保険料は、自分がいったん給料として受け取った後、自分で納めたものとみなすからです。
勤続年数40年、平均年収500万円と仮定
- 保険料の総額:約3,600万円(先ほどの2倍)
- 受給額の合計:約3,000万円(先ほどと同じ)
これでは、85歳くらいまで生きないとモトがとれません。
現実問題として、国民年金だけの人よりも、厚生年金に加入している人の方が受給額は多いです。
フリーランスの年金は、年額約78万円です。
一方、会社員や公務員がもらえる年金額の平均は年額約190万円で、配偶者がいる場合はさらにプラスされます。
このような状況を見て、厚生年金加入者を羨ましく思う国民年金の加入者は少なくありません。
ところが、「会社負担分の年金保険料は、社会保険に加入していなければ本来給与としてもらえたはず!」と考えると、とたんに景色は変わってきます。