2022年8月、THE WALL STREET JOURNAL.(ウォール・ストリート・ジャーナル)に、「職場の新フレーズ「静かな退職」って何?仕事で頑張り過ぎることをやめた若者たち」という記事が公開されました。
記事によると、最近のアメリカの若者たちは、日本で言う「働かないおじさん化」しているとのことです。
日本のサラリーマンは、世界一会社に対する忠誠心が低いというデータがあります。
会社に対して以下のように考える人が多いのは、日本独特の現象と思っている人もいるかもしれません。
- 早く会社を辞めたい。
- 9時~5時で最低限の仕事だけしたい。
- 出世には興味が無い。
しかし、紹介したウォール・ストリート・ジャーナルの記事からも分かるように、実際のところは日本独特の現象ではなさそうです。
そこで今回の記事では、以下の3点について解説します。
静かな退職(quiet quitting)とは
アンチワークとは
静かな退職やアンチワークをおすすめしない3つの理由
今回の記事を読めば、仕事との距離感に悩む人が多く、日本に限らずアメリカの若者も同様なのだと分かるはずです。
世界経済の中心であるアメリカの最新トレンドを知った上で、自分はどうすべきか?どうしたいか?について考えるキッカケにしてください。
以下の図解を見てから記事を読み進めると理解しやすくなるので、参考にしてください。
▼図解:アンチワーク!静かな退職って?
目次
解説動画:【働き方の新トレンド】「静かな退職」「アンチワーク」について解説【quiet quitting】
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
静かな退職(quiet quitting)とは
静かな退職(quiet quitting)は、「自分の仕事について真剣に考えすぎない態度」という働き方に付けられた新しい名前です。
このフレーズを使った動画が、TikTokで何百万回も再生されています。
最近、以下のような若者が増えているそうです。
- 仕事で、期待以上の成果を目指すという考え方を拒否する。
- 社員としてとどまりながら、仕事以外のことに重点を置く。
要するに、職場には行くものの、働く熱意がとてつもなく低い状態です。
このような、「職場に居ながら、仕事を辞めているのと変わらない状態」に対して、静かな退職と自ら名付けたワケです。
働かないおじさんとは、周囲の期待に対する役割に対して、成果や行動が伴っていない中高年社員のことです。
若手のやる気を削ぎ、会社の生産性を下げる存在として問題視されています。
「「働かないおじさん問題」のトリセツ」という書籍が出版されたり、日経ビジネスで「どうする?働かないおじさん」という特集が組まれたりと、社会的な話題になっています。
ちなみに、年収2,000万円貰っている窓際族のことを、皮肉を込めて「Windows 2000」と呼ぶ人もいるそうです。
しっかり働かずに2,000万円もの収入を貰う人は、働かないおじさんの最上位と言えるでしょう。
そして最近、コロナ禍でリモートワークが普及したことにより、「Windows 2000 Home Edition」という新バージョンも生まれたそうです。
このような皮肉・話題があるのは日本だけのことかと思いきや、実はそうではないというのが今回のテーマです。
「静かな退職(quiet quitting)」という言葉は、実際は会社を辞めていないにも関わらず、退職しているかのようなレベルの熱意で働いている自分を、皮肉を込めて表現しています。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、以下の点が紹介されています。
- 米国では、全ての世代で従業員エンゲージメント(会社への貢献意欲)が低下。
→ エンゲージメントが低下したのは、過去10年で初めて。
- 特にZ世代・ミレニアル世代の若い層(1989年以降生まれ)のエンゲージメントが最も低い。
- 彼らの54%は、職場に現れて最低限の仕事をこなし、それ以外ほとんど何もしない。
次は、記事に登場している若者のコメントを紹介します。
「給料をもらうために決められた時間だけ働く、それ以上は頑張らない。」
「期待を超えるという考え方をやめる、ということだ。仕事が人生でなければならないというハッスルカルチャー的な考え方に、もう従うことはない。」
上記のように、アメリカの一部の若者たちは、キャリアを自分のアイデンティティ(存在意義)から切り離したいと考えているようです。
今回の記事を読んでいる人の中にも、以下のように考えている人がいるかもしれません。
アンチワークとは
静かな退職は、皮肉を込めた単なるジョークであるコトもあれば、真面目にワークライフバランスを考えた結果というコトもあります。
例えば以下のようなケースは、静かな退職ではなく、従業員として普通の働き方だと感じる人も多いでしょう。
- 定時を過ぎたらパソコンを閉じて帰宅し、家族との時間を増やす。
- 給与に見合った仕事にとどめる。
- 1人分の仕事量にとどめ、2~3人分の仕事量はやらない。
- 契約以外の業務は、頼まれてもやらない。
一方、上記の考え方よりも過激派な人たちもおり、彼らのスタンスはアンチワークと呼ばれています。
今、米国の巨大掲示板サイトReddit(レディット)では、反労働をテーマにしたコミュニティが盛り上がりを見せているそうです。
2022年9月時点での参加者は、なんと220万人を超えています。
アンチワークの背景にある考え方は、「資本主義を転覆させて、できるかぎり労働に伴う強制的要素を無くすこと。」とのことです。
ちなみに、アンチワークに関するスレッドが立ち上がったのは、2013年まで遡ります。
スレッドの正式名称は、「アンチワーク:働かないことは、お金持ちだけの特権ではない!」です。
つまり、お金持ちが働かないように、自分たちも働かないという主張をしているワケです。
下図からは、コロナ禍をきっかけに、急激にコミュニティのメンバーが増えているのが分かります。
アンチワークのコミュニティでは、以下のような人が大人気です。
- 過去5年間、週1~2回電話に答える以外何もせず、年収約1,080万円の人。
- 会社にバレずに仕事をITで自動化し、働いているフリをしながら、年収約1,200万円の人。
とにかく、いかに働かずに給料をゲットするかがポイントです。
アンチワークのスレッドの管理者は、「ほとんどの仕事が、卑劣で屈辱的で、搾取的だった。」と語っています。
職場でヒドイ目に遭わされた人たちが、資本家から搾取されるのではなく、資本家を搾取してやろうと考えるようになるのは、無理からぬ話なのかもしれません。
またアメリカでは、「Great Resignation(グレート・レジグネーション)」=「大量離職」と呼ばれる現象が起きています。
自ら仕事を辞める人の数が、たった1カ月で450万人に達し、日本でもNHKが特集するまでの話題になりました。
(参考:NHK「「もう辞めた!」大量離職のアメリカで何が!?」)
ここまでの話をまとめると、今、世界経済の中心地のアメリカでは、労働観が以下のように変わりつつあるようです。
- 本当に仕事を辞めてしまう人がたくさんいる
- 「静かな退職」をする人がいる
- 「アンチワーク」をする人がいる
- 高度経済成長期のジャパニーズサラリーマンのように、24時間働く。
- 良い会社に入り、出世の階段を上り、役員を目指す。
- ワークライフバランスを重視して、イイ感じに働く。
- アンチワークのようなスタイルで、資本家に立ち向かう。
- リスクをとって独立し、自営業者や経営者になる。
リベ大では、少なくとも静かな退職やアンチワークはおすすめしません。
そこで次は、静かな退職やアンチワークをおすすめしない3つの理由を解説します。
静かな退職やアンチワークをおすすめしない3つの理由
静かな退職やアンチワークをおすすめしない3つの理由は、以下の通りです。
- 持続性が低い
- 経済的自由が遠のく
- 良い時間の使い方とは言えない
理由①:持続性が低い
静かな退職やアンチワークのような生活は、基本的に長く続けることができません。
なぜなら、以下のような負の側面が大きいからです。
- 同僚からの尊敬・信頼を得られにくい。
- 上司からは重用されない。
- リストラの際、真っ先に対象になる。
- 居心地が悪くなり、かえってメンタルや健康にダメージを与える。
リベ大では過去に、「出世したくない」が招く最大のデメリットについて解説しています。
上記の記事では、稼ぐ力(=人的資本)をアップさせるために重要な2つのことについて解説しています。
→ 年収を増やす
→ 働く期間を伸ばす
出世なんてしなくて良いという人は、管理職になりアップする年収と、それと引き換えに増える責務を比較して、コスパが悪いと判断しがちです。
しかし、出世しなくて良いというスタンスには、運用期間を短くするリスクがあることを忘れてはいけません。
特に今の時代は、どの会社も厳しくなっているので、「平社員で気楽に定年まで…」というのは、少し甘すぎます。
平社員のまま会社に残れない理由は、主に2つあります。
- 年々、居心地が悪くなっていくから。
- 真っ先にリストラの対象にされるから。
平社員の状態で残り続けると、いつまで経っても裁量・権限が増えず、上司に振り回され続けます。
「早く時間が過ぎないかな…」とだらだら過ごし続けるのは、思っている以上に過酷です。
以下のように、精神的につらいと感じる場面も多くあるでしょう。
- 同期や後輩が、自分の上司になる。
- やる気・学習意欲の高い若手と実務で競い続けるハメになる。
- 周囲から、「あいつは会社から評価されていない」という目で見られ続ける。
1日最低8時間~10時間、起きてる間の約3分の1という時間は、無気力に過ごすには余りに長すぎます。
これからの時代は、平社員のまま逃げ切れない人は増えるのではないでしょうか。
そういう意味でも、今回の記事は、リベ大の記事「「出世したくない」が招く最大のデメリット」と共通する部分があります。
ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にもあったように、静かな退職やアンチワークには批判もあります。
頑張らない姿勢は現実逃避に過ぎず、仕事の不満や燃え尽きに対する万能薬ではないということです。
競争には良い面・悪い面の両面あるものの、勝つ気が無い人は、勝つ気がある人に負けるというのは、残酷な事実として認めざるを得ないでしょう。
アンチワークは打倒資本主義なのでさておき、静かな退職が唯一成立するケースは、「その働き方を会社が推奨している時」です。
いわゆるスーパーホワイトな企業で、皆が同じテンションなら、成立する可能性があります。
共に働く仲間がいる以上、同じ方向を向いていないと厳しそうというワケです。
理由②:経済的自由が遠のく
経済的自由を得るには、お金が必要です。
お金が無い人がお金を得るには、自分の身体と頭を使って働くしかありません。
そして投資でお金を増やすには、原理的に時間が必要です。
なぜなら、時間を味方につけ、複利を活かすことが投資の本質だからです。
つまり、「持たざる者」が資産を作るためには、人的資本(=働いて稼ぐ力)を伸ばすことが、決定的に重要になります。
年間300万円の配当金を得るにはおよそ1億円必要ですが、年収300万円稼ぐために1億円は不要です。
極端な表現にはなりますが、皆さんの労働には元本1億円分の価値があるのです。
つまり、年収を2倍の600万円にできた場合、皆さんの労働の経済価値は2億円になります。
人的資本を最大化することが、経済的自由に到達する最も確実で早い方法というワケです。
若いうちからワークライフバランスにこだわる
夢中になれる仕事に没頭する
尊敬する仲間と一緒に頑張る
得意な仕事をとことん突き詰める
結果として、気がついたらものすごく働いていたという程度でちょうど良いかもしれません。
リベ大両学長は、自分の周りにいたワークライフバランス重視の人が、20代・30代で億万長者になったケースを見たことが無いそうです。
稼ぎ切った後に、バランスを取り緩く働いている人もいますが、若いうちから億万長者になる人は、以下のような経験をしたことがある人ばかりです。
- やる時は、とことんやる。
- 周りがドン引きするぐらい、ガッツリやる。
もっとも、本人たちは「好き・得意なやりたいこと」をしているので、長時間労働で苦しんでいるというワケではありません。
両学長の知人で過去に独立した人は、独立直後に365日中360日働いていたそうです。
しかし、本人としては「気が付いたらそうなっていただけ」とのことで、結果的に今は億り人になっているようです。
仕事が嫌・休みが欲しいなどは無く、語弊を恐れずに言うと、ずっと遊んでいるような感覚だったそうです。
毎日楽しくて仕方がなく、気が付いたら働いていたという感じです。
もちろん、誰も彼も経済的自由を目指す必要はありません。
とはいえ、「お金なければ自由なし」というのも、今の世の中では誰も否定しえない残酷な現実です。
もし、静かな退職やアンチワークが上手く機能して、この調子で働けば幸せになれると感じたとしても、それは砂上の楼閣(ろうかく)であるケースがほとんどでしょう。
つまり、簡単に崩れてしまうというワケです。
少し厳しい表現にはなりますが、生殺与奪の権を他人に握られないためには、絶対にお金が必要です。
そこでリベ大は、以下のような思いを持ってで発信を続けています。
- リベ大で学ぶ皆さんには、一人残らず経済的に自由になって欲しい。
- 皆さんの好き・得意を生かして、仕事を道楽化して欲しい。
- お金・時間、両方手に入る生き方を探して欲しい。
とはいえ、疲れている時は休むことが最優先です。
心身が完全に回復するまで、静かな退職やアンチワークなど、なんでもやってください。
皆さんの健康以上に大切なことはありません。
理由③:良い時間の使い方とは言えない
「限りある時間の使い方」という全米ベストセラーになった書籍では、良い時間の使い方の参考になる考え方が示されています。
すごく面白い本なので、興味のある人はぜひ読んでみてください。
書籍では、人が80歳まで生きるとして、人生は4,000週間しか無いことに触れられています。
古代ローマの哲学者、セネカは以下のように言いました。
われわれに与えられたこの時間はあまりの速さで過ぎてゆくため、ようやく生きようかと思った頃には、人生が終わってしまうのが常である。
そして現代を生きる人間たちが、その短い人生をいかに不条理に生きているかについて、ニューエイジの思想家であるアラン・ワッツは以下のように言っています。
教育について考えてみればいい。まるで詐欺だ。
まだ幼い子どもの頃から保育園に入れられる。
保育園では、幼稚園に行くための準備をしろと言われる。
幼稚園 に入ったら1年生の準備、1年生になったら2年生の準備。
そうやって高校まで行ったら、今度は大学に行く準備だ。
そして大学では、ビジネスの世界に出る準備をしろと言われる。
…… こんな人生、顔の前にぶら下がったニンジンを追いかけるロバみたいなものだ。
誰もここにいない。誰もそこにたどり着けない。誰も人生を生きていないんだ。
- 働きすぎて仕事・時間に追われ、人生を消耗している人。
- 将来のために(例えば経済的自由を手にするため)、今を犠牲する人。
なぜこの書籍を紹介したかというと、「今、この瞬間を夢中で生きること」が、最も良い時間の使い方だからです。
夢中になれない仕事に人生を費やしたり、楽しくない仕事のための終わりなきタイムマネジメントをしたりすることは、もったいない時間の使い方です。
しかし、夢中になれる仕事に取り組むことができれば、それ自体が人生を豊かに生きていることに他なりません。
とはいえ、皆が皆、仕事に夢中になれるワケではないという意見もあるでしょう。
才能・個性・性格など、人それぞれというのは、確かにその通りです。
夢中になれる仕事を見つけられた人は幸せな人です。
一方、夢中になれる仕事を見つけられずに、人生を終える人もいるでしょう。
重要なポイントは、幸せになれた人に、夢中になれる仕事が自然に降ってきたワケではないということです。
夢中になれる仕事を見つけられた人というのは、その仕事を誰かに与えられたのではなく、自らの鍛錬・運を引き寄せる努力でつかみ取っているのです。
根っからの仕事嫌いという人は、それはそれで良いでしょう。
しかし、嫌いなのが仕事自体や働くことそのものではなくて、今の会社・人間関係だという場合は、自分の人生を使う場所を、歯を食いしばって探してください。
- 新しいスキルを学ぶための良質な教材が溢れている。
- SNSなどを通じて職場・出会いを探せる。
- 良質な転職エージェントが増えた。
- 転職や独立のリスクを下げるための資産運用も、身近で手軽になった。
夢中になれる仕事を探すのは、会社に貢献するためではなく、自分の短い人生を豊かに生きるためです。
仕事が全てではありませんが、仕事が無ければ生活していけないのも事実です。
どうせやる必要があるなら、良い仕事を良い仲間たちとやりましょう。
結論:静かな退職はおすすめできない
静かな退職(quiet quitting)をおすすめしない理由は、以下の3つです。
- 持続性が低い
- 経済的自由が遠のく
- 良い時間の使い方とは言えない
結局、静かな退職は「あんまり良いこと無いんじゃない?」というのが、リベ大の結論です。
もちろん、心身に不調を抱える人が一時的に休むために、静かな退職を選択するのはアリでしょう。
しかし、休んで鋭気を養うことができたら、以下のような取り組みをおすすめします。
- 今の職場で、やりたいことができないか探す。
- 今の職場で、夢中になれる仕事をやる。
- 上記2つが無理なら、新たな職場を探す。
自営業や社長をしている人の中には、職業選択の理由として、「人に雇われるのがイヤだから」や「自分以外、誰も自分を雇ってくれないから」という理由をあげる人もいます。
独立に比べれば、転属希望や転職は大したリスクではありません。
そして、独立のリスクについても、備える方法はいくらでもあります。
リベ大では過去に、失敗しない独立のための10条件について解説しています。
いずれにせよ、今の仕事に夢中で取り組み、経済基盤を整える、という2つに取り組む限り、常に未来への可能性は開けた状態になります。
世界がどう転んでもやっていけたり、つらい時に手詰まりにならずに済んだりします。
不幸の種をまくのではなく、可能性の種をまきながら、充実した今を生きましょう。
まとめ:今を大事にして夢中になれる仕事を見つけよう
今回の記事では、以下の3点について解説しました。
静かな退職(quiet quitting)とは
アンチワークとは
静かな退職やアンチワークをおすすめしない3つの理由
静かな退職(quiet quitting)とは、自分の仕事について真剣に考えすぎないという働き方に付けられた新しい名前です。
仕事で「期待以上の成果を目指す」という考え方を拒否し、社員としてとどまりながら仕事以外のことに重点を置く働き方です。
静かな退職は、自分の生き方について皮肉を込めてジョークのように言うだけの場合もあれば、ライフワークバランスをマジメに考えた結果の場合もあります。
一方、アンチワークとは、反労働・打倒資本主義のことを言います。
目的は、「資本主義を転覆させて、できる限り労働に伴う強制的要素を無くすこと」です。
静かな退職と比べると、過激派の考え方と言えるでしょう。
従業員の立場で、できる限り働かず最大の報酬を目指すというのは、資本家に搾取されるのではなく資本家を搾取する働き方と呼べるかもしれません。