そのワードは、「FIRE卒業」というものです。
FIREというのは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字を取った言葉で、日本語にすると「経済的自立」と「早期リタイア」を意味します。
コトの発端は、とあるユーザーさんたちの以下のようなツイートです。
以下のように、否定的なコメントから理解を示すコメントまで、投資家を中心に多くの声が溢れました。
「それはただの復職だろ」
「無職が再就職するだけの話」
「こうなるのは目に見えていた。FIRE生活なんて飽きる」
「FIREしても、働きたい時は働けば良い。失敗でもなんでもない」
「FIREしてみて上手くいかなければ、別の生き方を模索するだけの話」
この流れで、リベ大にも「FIRE卒業についてどう思いますか!?」というコメントが寄せられました。
リベ大両学長の話をすると、FIREはしているものの、今は結構働いている状態です。
両学長自身は、もはや仕事と遊びの区別は無く、仕事が楽しくて仕方がない状態です。
イヤなことは一切していないので、両学長自身はFIREしている感覚ですが、世間ではそう見ない人もいるでしょう。
というワケで、自分自身FIREしており、世間的に見れば働いてもいる両学長の視点も交えつつ、FIRE卒業について解説していきます。
FIRE卒業について伝えたいこと
FIRE維持に必要な3つの条件
今回のテーマが、やる気を出す燃料の1つになってくれたら嬉しいです。
目次
解説動画:【ブーム終了か】「FIRE卒業」のトレンド入りと「FIREを維持する3つの条件」について解説
このブログの内容は以下の動画でも解説しています!
FIRE卒業について伝えたいこと
FIRE卒業の2つの理由について
→ 理由①:お金が無くなる
→ 理由②:お金はあるが働かない生活に飽きる
FIREブームの反動でやる気を削がれないように
FIRE卒業の理由①:お金が無くなる
FIREのFI (経済的自立)の部分は、「生活費<資産所得」の状態を指します。
例えば以下のような状態です。
- 月の生活費は20万円、毎月の配当金が20万円以上。
- 月の生活費は30万円、毎月の家賃収入(手残り)が30万円以上。
- 年間の生活費は400万円、年間のインデックスファンドの運用益が400万円以上。
→ インデックスファンドの運用額が1億円、期待リターンを4%以上と考えると、1億円 × 4% = 400万円となり、理論上はお金が減らない。
この状態でFIを失敗するパターンというのは、以下のようなケースです。
- 生活費が上がりすぎて、生活費>資産所得になってしまう。
- 資産所得が減少して、生活費>資産所得になってしまう。
上記のうちのいずれか、もしくは両方が起こるとFIは失敗となります。
FIREできるくらい才覚のある人が、生活費を上げすぎて自滅するというケースは稀でしょう。
よって基本的な失敗パターンは、「不景気・暴落相場で資産が吹き飛ぶ」ということになるはずです。
2022年11月時点で、ナスダックは年初来でマイナス30%超え、大人気だったレバレッジ系のファンドは軒並みマイナス50%~80%と暴落しています。
多くの億万長者を生み出したビットコインも、年初来でほぼ半減しました。
このような投資でFIの資金を作った人は、FIの土台が崩れてもおかしくない相場でしょう。
つまり、FI資金を失ってしまう人は「そもそも、FIの土台が脆弱すぎた」ということになります。
言い換えると、お金を「増やす力」「守る力」が不足していたとも言えるでしょう。
▼図解:「増やす力」「守る力」
ただし、仮に資産が半減した場合も、生活費の10年~15年分もの大金を抱えていることは変わりません。
0からFIREへの道と比べると、進捗度50%からFIREへの道の方がはるかにラクです。
単純に、もう一度積み上げなおせば良いだけと考えれば良いでしょう。
これは「FIREの闇」の一面になりますが、FIの土台固めには終わりがありません。
例えば、年間400万円の資産所得があればFIが達成できると仮定します。
毎年400万円が入ってくるのであれば、寝てても暮らせるような状態です。
この状態になるためには、4%ルールで割り返す計算をすると、1億円の資金が必要になります。
1億円あれば、理論上毎年400万円の資産所得を増やすことは、そこまで難しくはありません。
では、1億円貯めた人はすぐにFIREしようとするでしょうか?
なぜなら1億円貯めた人の多くは、以下のように考えるからです。
土台の脆弱なFIは、「そんなハシタ金じゃFIREとは言えない」と叩かれがちですが、土台の盤石なFIを目指すと、人生が何十年あっても足りなくなります。
お金を貯めることに夢中になっているうちに、うっかり人生の期限が訪れるかもしれません。
自由を愛するFIRE民にとって、これほどやるせないことは無いでしょう。
というワケで、どうしてもどこかの段階で「思い切る」必要があります。
この思い切りは、FIRE達成に必要な才能の1つと言って良いかもしれません。
思い切った上でFIを維持できるなら、それで万々歳です。
なぜならこの決断により、人生の自由な時間が増えるからです。
80歳の老人に「3億円あげるから、君の若さをくれ(私と入れ替わってくれ)」と頼まれて、立場を入れ替える若者はほとんどいないでしょう。
一方で、もしFIの土台が揺らいでも、態勢を立て直せば良いだけです。
一度はFIREを達成しているので、「強くてニューゲーム」をするようなものでしょう。
給料の高い会社員・正社員として復職するのは難しいかもしれませんが、若くしてFIREしている人は副業・自営業も織り交ぜている人が多いです。
このような人は、比較的立て直しもラクにできるでしょう。
FIRE卒業の理由②:お金はあるが働かない生活に飽きる
ちなみに両学長は20代半ばから後半にかけて、セミリタイア生活をしていましたが、まさにこのパターンに該当します。
両学長は働かない生活に飽きてしまったそうです。
この失敗パターンが多いのは、FI(経済的自立)は向いているものの、RE(早期リタイア)には向いていない人が割と多いからです。
REに向かない人が多いことについて、考えられる理由を3つ紹介します。
① FIREできるくらいの才覚がある人は、仕事ができる人が多いから。
② 仕事ができる人は、自分のアイデンティティを仕事に結び付けがちだから。
仕事ができる人にとって、仕事は娯楽になりえます。
「お金を稼げる」「達成感が得られる」「新しい人間関係が定期的に生まれる」というように、仕事からたくさんの果実を得ている人は、仕事ができる自分にこそ価値を見出す傾向があります。
逆に、仕事をせず社会に貢献していない自分に耐えられなくなるワケです。
実際は「仕事をしていない = 社会貢献していない」というのは、ただの思い込みという点は補足しておきます。
子どもの頃は、休み時間に何をするかで悩むことは無かったでしょう。
ドッジボール、かくれんぼ、鬼ごっこ、カードゲームなど、やりたいことはいくらでもあったはずです。
以下のように言う子どもは、超少数派でしょう。
「先生!急に1時間も休み時間を与えられても困ります!ヒマでやることがありません!」
「先生!夏休みが1ヵ月以上あるなんて長すぎます!退屈で退屈でしょうがないです!」空き缶ひとつでも遊びを思いついて、何にでも興味を持つのが子どもです。
創造力や好奇心というのは、意識しないとひたすら減退していきます。
新しいことを創造する力、好奇心を持ち追求する力、これが無い人にとって余暇は地獄でしかありません。
このような人は、自分で新しいことを生み出せず、周りのことに関心が無い状況というワケです。
自分自身が好奇心を持っているかにかかわらず、「誰か」が新しいものを生み出してくれ、「誰か」が強制的にこれをやれと言ってくれる環境に身を置かないと、ツラい状況になります。
彼らにとって、ビジネスを生み出すことほど刺激的な遊びはありません。
ちなみに両学長もこのタイプで、ビジネスを生み出している時が一番楽しいそうです。
ビジネスを通じてワイワイできる人も増え、どんどん楽しくなるので、永遠にビジネスを生み出し続けています。
どんな理由にせよ、「お金はあるけど、働かない生活に飽きた」という人は、働けば良いだけの話です。
FIしている人は、働く自由もあるし、働かない自由もあります。
働かない自由を手にしていることにこそ、価値があります。
つまり、働くも働かないも自由という中で、働いていることに意味があるワケです。
「仕事する → 働かない → 仕事する → 働かない」ということを繰り返す人生を選ぶのも自由です。
結局のところ、FIが崩れていないかどうかの方が重要だということです。
働かなければいけない状態で働くのと、働いても働かなくても良い状態で働くのでは、全く意味合いが違います。
FIREブームの反動でやる気を削がれないように
2022年11月7日の日本経済新聞に「FIREは甘くなかった 試される個人投資家」という記事がありました。
一部、引用して紹介します。
【事例①】
「こんなはずじゃなかった」。10月末、30代後半の会社員、宮城隼人は苦笑した。
(中略)
宮城は累計で約600万円をレバナスに投じ200万円弱の含み損を抱える。「株式でFIREは厳しいと思い知った」【事例②】
「ここで引いたら負ける」。埼玉県に住む40代の派遣社員、松本遥(仮名)はつぶやく。
松本は月5万円弱を米国株に積み立て投資する。保有する投信の評価額は下がり、今も1割超の含み損を抱える。【事例③】
20代の会社員、高橋良樹はピーク時に180万円あった株式などの含み益が4割減った。
昨年の上げ相場ではほぼ全額を株式などに振り向けていたが足元で8割を現金にして守りを固める。
「つい個別株を買ってしまった。買い時は今ではない」と悔やむ。
この記事の中身について、あえてツッコミは入れませんが、リベ大で勉強している皆さんであれば、ツッコミどころが分かるはずです。
皆さんにお伝えしたいのは、不景気になったり相場の調子が悪くなったりすると、このような記事が増えるということです。
リベ大では、FIREは一過性のブームでは無いと考えています。
貧しい時代から、モノやサービスに溢れる豊かな時代になり、相対的に時間の価値が増しています。
先進国で暮らす現代の一般市民の生活水準は、一昔前の王様の暮らしのようなものです。
おとぎ話の王子様でも、アイスクリームは食べられません。
住宅、車、家電、食事、医療など、かつて一般市民がこれほど安全・快適に暮らせた時代は無いでしょう。
この豊かな世界で、「自由を満喫したい」と思う人が増えるのは当然です。
そして、FIREを目指す過程で鍛える「お金にまつわる5つの力」は、資本主義社会を豊かに生き抜くための普遍的な力です。
▼図解:お金にまつわる5つの力
世の中お金が全てではありませんが、お金があるだけで解決できることはたくさんあります。
皆さんが積み上げた資産は、決して皆さんを裏切りません。
多くの場合、FIREというのは長期計画なので、1年や2年で結果が出るものではありません。
今、続々とFIREしている人たちは、10年前、20年前から準備していた人です。
次の10年、20年でFIREしていく人は、今から準備している人です。
皆さんが経済的自由を達成するまでに、何回か不景気を経験することでしょう。
その都度、このような記事がたくさん出てくるはずです。
今回解説したような「FIRE卒業・失敗」といったワードも、幾度となく目にすることでしょう。
しかし、「自分は方向性を間違えているのかな?」と不安になる必要はありません。
FIを達成して後悔している人は、そうそういません。
やる気を失わず、どっしりと構えて航路を守ってください。
FIRE維持に必要な3つの条件
次は「FIRE維持」に必要な条件について解説します。
この話は、「FIRE卒業」というテーマと表裏一体です。
不本意な卒業を避けるには、FIRE生活維持のためのキホンを押さえることが重要です。
結論からお伝えすると、FIRE維持に必要な3つの条件は以下の通りです。
- 基礎生活費を資産所得で賄える
- 家族・友人からの理解または不干渉がある
- 自分なりの「哲学」がある
条件①:基礎生活費を資産所得で賄える
先ほど解説した通り、FIの定義は「生活費<資産所得」となることです。
ここまでは誰もが知っているという前提で、もう少し踏み込みましょう。
難しいのは、生活費や資産所得は不変ではないという点です。
生活費は、年齢や家族構成、趣味の状況、インフレ率などによっても変動します。
そして資産所得は、配当金が減配したり、家賃水準が下がったり、株式の時価評価額が下がったりというように、いくらでも減る可能性があります。
「生活費が増えるかもしれない」「資産所得が減るかもしれない」を解決するための結論は1つです。
厳然たる事実として、お金があればあるほどFIは安定します。
とはいえ、世の中に絶対はありません。
無リスク資産と呼ばれる「国債」「預金」でさえ、時には価値が無くなります。
革命、戦争、何が起きるか分からないのが世の中です。
無リスク資産の金利でさえ、インフレ率に負ければ実質的に目減りします。
そしてインフレ率がどうなるかは、誰にも読めません。
結局、「100%の安心」を求めていたら、いつまでもFIは達成されないので、妥協(調整)が必要になるワケです。
ここで、妥協(調整)の例を3つ紹介します。
95%というのは、統計上は「ほぼ負けない」という数字です。
4%ルールが支持される理由は、成功確率が95%あるからです。
基礎生活費だけは必ず資産所得で賄えるようにしつつ(FIの前提)、ゆとり費については「資産運用が好調なら資産所得で賄う」「資産運用が不調なら、好きな仕事をして賄う」と割り切る方法です。
要は、最低限の生活費だけは資産所得で賄いつつ、それ以外の遊興費は稼げば良いというように、間を取る作戦です。
一生同じ水準の生活費を維持しようと思わないことです。
不景気の時に資産の引き出し率を下げ、生活水準を下げるのは、FIRE維持の基本戦略です。
逆に考えると、以下のような人はFIREを維持できない可能性が高いということです。
- 成功確率が95%に満たない投資戦略を取っている。
- 生活費を絶対に下げられない家計になっている。
→ 拒否できないローンの支払いがあるなど。
- ゆとり費が膨張する家計になっている。
→ 基礎生活費には上限があるが、ゆとり費には上限が無い。
- 生活費を絶対に下げられないマインドを持っている。
ちなみに両学長の例をお伝えすると、現在の毎月の生活コストは結構高いものの、生活費はいつでも下げられると考えているそうです。
ローンの支払いなども無いので、実際いつでも生活コストを下げることができる状況になっています。
条件②:家族・友人からの理解または不干渉がある
FIREについては、お金のことばかりが語られがちですが、それ以外でとても重要なことがあります。
それが、「家族・友人からの理解」または「家族・友人からの不干渉」です。
働かないで生きるというのは、ある種の特権です。
この特権を持っている人は、決して多くありません。
少数派として生きるということは、人と違う生き方をするということです。
人と違う生き方をするには、家族・友人などの身近な人に「理解されるか」「干渉されないか」のいずれかであることが重要になります。
誰も、「自分の生き方を否定されて生きたい」とは思わないでしょう。
毎日耳元で以下のように言われ続けたら、気持ちも揺れてしまいます。
「どうして働かないの?」
「そんな生活の何が楽しいの?」
「あの人はあんなに社会貢献しているのに、あなたはどうなの?」
橘玲さんの著書「幸福の資本論」には、幸福には以下の3つの土台があると書かれています。
① 金融資本
→ お金や株式、土地などの財産。
② 社会資本
→ 人との繋がり、絆。
③ 人的資本
→ 働いて稼ぐ力。
FIREすると、③の人的資本だけではなく、②の社会資本も失われがちです。
幸福の3本柱のうち2本が欠け、肝心の①の金融資本もリスクにさらされており、絶対安心ではない状況であれば、不安にならない方がおかしいです。
極細の足で一本足打法をするようなものなので、風が吹けば倒れます。
社会資本を維持するには、家族・友人に理解してもらうこと(少なくとも不干渉でいてもらうこと)が最重要です。
最も身近な関係を安定させたら、FIREしたからこそ作れる新たな人間関係を構築していきましょう。
宣伝になりますが、社会資本を育てるきっかけが欲しい人は、ぜひリベ大のオンラインコミュニティ「リベシティ」に来てください。
日本でこれほどたくさんの人と「お金」や「FIRE」の話を気軽にできるコミュニティはありません。
実践的な投資戦略・家計戦略についてもアドバイスがもらえるので、不本意なFIRE卒業を避けるための重要な場になるはずです。
もし実際に入ってみて、いけ好かない人ばかりだったら、実はFIREには向いていないのかもしれません。
それはそれで、学びになるというワケです。
リベシティの人口はどんどん増えており、皆さんが想像している以上に大きな街になっています。
条件③:自分なりの「哲学」がある
① 金融資本
→ お金や株式、土地などの財産。
② 社会資本
→ 人との繋がり、絆。
③ 人的資本
→ 働いて稼ぐ力。
FIREをすると、③の人的資本が失われます。
働いていたらFIREでは無いので、当然と言えば当然です。
現代資本主義では、やりがい・自己実現が強烈にお金に結びついていますが、「お金と自分のアイデンティティを切り分けたい」と考えている人は、決して少なくありません。
要するに、働いていなくても、お金を稼いでいなくても、「自分は自分で、やりがいを持って生きている・自己実現をしている 」という感覚を持ちたい人がたくさんいるワケです。
仮にやりがい・自己実現が「お金」と結びついていると、以下のように考えてしまいます。
年収の高い仕事の方が良い仕事(やりがいのある仕事)
年収の低い仕事は良くない仕事(やりがいの無い仕事)
このような考え方が「なんか変だな」と思う人は、結構いるはずです。
「年収が低くても、やりがいのある仕事はたくさんある!」「年収が高いからといって、やりがいが必ずあるワケではない!」と考える人は多いでしょう。
それでも、この考えから離れきれないところ